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第7章 フラットランドの不正規図形

第6章のつづき

おそらく最初に言っておくべきことだったのだろうけど。

ここまで前提となっていたのは、フラットランドの住人はすべて型にはまって整然とした図形だということ。つまり、ご婦人は単なる線ではなく、まっすぐの線でなくてはならない。職人や兵士は二辺が等しくなければならず、商人は三辺が等しく、私のような法律家は四辺が等しい。一般的にどんな多角形も、すべての辺が等しくなければならない。

辺の大きさは年齢による。生まれたばかりのご婦人は長さが2.5センチほどだが成人女性は30センチほどになる。成人男性はどの階級でも60センチ程度だろう。とはいえ問題は長さよりも、辺の長さが等しいかどうかなのさ。それはフラットランドの社会生活のすべてに影響があるし、基本的な事実として図形の辺を等しくさせる意志を自然法則は持っている。

もし、辺の長さが等しくないのであれば、角も等しくなくなる。すると、角に直接ふれたり見た目だけでは、相手の形が見分けられない。すべての角に「ふれる」ことで確認しなければならないし、これは骨が折れる。視覚認識の技術体系だって消滅し、人々の交流は危険で不可能なものとなる。もっとも基本的な社会的な取り決めですら不可能となり、文明が野蛮なものになってしまうだろう。

ちょっと考えてみれば、普段の生活を一見するだけでも、私たちの社会システムは角が等しいという規則性にもとづいてできている。道で数人の商人に会ったとして、ちらりと相手を見れば、彼らの角度と辺の急な暗さによって相手は商人だと判別できる。そして自宅の食事に誘うことだって自信をもってできるだろう。面積の予想がだいたいつくからね。例えば、長さが等しく見えた頂点の後ろに30センチ以上の平行四辺形を引きずっていたらどうなるだろう。このようなモンスターが戸にがっちり突き刺さってしまったら、もうどうしようもない。

スペースランドのあなたにとって明らかなことをあれこれ言うのも失礼かもしれないけどね。図形がしっかり規則性を持っていることはとても大切なことなのさ。そうでなければ知人の辺の長さを調べるのに一生かかってしまう。人混みでぶつかることを避けることすら大変なのに、となりを歩くひとつの図形にすら法則性がないとしたら混乱してしまうだろう。その場にご婦人や兵士がいれば、貴重な命を失うことにもなりかねない。

この世界で図形が型破りであることは、あなたの世界でいう不正や犯罪であり、いやもっと凶悪なものでそれなりの扱いを受けることになる。確かに、幾何学的な不規則性が道徳から外れることを意味するわけではない、そんな逆説を広める者たちもいる。

彼らは「図形が型破りの者は、生まれたときから両親に拒絶され、兄弟たちにバカにされ、召使いには無視され、社会からも軽蔑され疑われ、あらゆる責任ある地位、信頼ある地位、有意義な活動から追い出される。警察には監視され、大人になれば検査のために出頭させられる。一定の範囲を超えてしまっていたら死刑になり、そうでなくても第七階級の事務員として政府庁舎に閉じ込められてしまう。結婚することも許されず、みじめな固定給で単調な仕事を延々とやらされ、庁舎の中で生活し、休暇のときも休まず監視される。いくら善良な人であっても、こんな環境では嫌になってしまうだろう」と主張する。

こういうのはまったくの屁理屈さ。優秀な政治家たちも、彼らの祖先が不規則な者と国の安全が相容れないことを政策原理としていたことを認めている。正しくない図形ってのは苦しいものだし、苦しくあるべきなのだ。

もしも、仮に前面は三角形で後ろは多角形なんて存在が許され、さらに型破りな子孫を増やしていくなら、私たちの生活はどうなってしまうだろう。このフラットランドの家や教会のすべてを建て替えなくてはならないし、劇場の入場係は全員の大きさを測ってから入場させなくてはいけない。また、軍の隊列を乱す不正規な図形は、兵役を免除するべきかどうか。そもそも不正規の図形は、不正を行わずにはいられないものさ。博愛主義者と呼ばれているやつらが、不正規な者たちへの罰則の撤廃を主張しているが、勝手にさせておけばいい。不正規な図形でありながら、偽善者でも人嫌いでもなく、悪さをしないやつなんていないのだからね。

いくつかの国では極端にも、生まれた赤ん坊の角度が正しい角度から少しでもずれているだけで即座に破壊されてしまう。これはいくらなんでもね。もっとも高位で優秀な人物にだって、子どもの頃に4分の3度、あるいはもっと大きなズレを持ちながら努力をして矯正してきた図形もいらっしゃるわけで。これらの尊い命を奪うべきではないだろう。最新の治療技術も進歩しているから、不正規な部分を修正できることだってある。私はこれについて極論の中間を支持していて、必ずしも絶対的な境界線を引こうとは考えていない。しかし、回復が不可能だと医学会が判断した不正規の図形は、苦痛のない慈悲深い方法で消滅させるべきだろうね。

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『フラットランド―二次元の世界から多次元の冒険へ』
エドウィン・アボット・アボット(著) 牧野内 大史 (翻訳)

つづく… 第8章 古代フラットランドの色彩技術

自分を変える旅から、自分に還る旅へ。

ABOUT ME
マッキー
牧野内大史(まきのうち ひろし)作家、コンサルタント。著書に『人生のシフト』(徳間書店から)スピリチュアル翻訳者として著名な山川紘矢さん 亜希子さんご夫妻 あさりみちこさんとのセッション本(ヒカルランドから)や、監修翻訳を担当した『ソウル・オブ・マネー』(リン・ツイスト著)等がある。2014年にIFEC(国際フラワーエッセンス会議)に日本人ゲストとして登壇した。長野市在住。