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プルラリティとパラレルシフト

なぜ今、私たちは対話不可能な世界に閉じ込められているのでしょうか?

SNSで明らかに「コレは間違っている」と思えるような意見を見かけた時。もしかして「この人とは絶対に分かり合えない」と感じることが増えていませんか。実は、この現象こそが現代社会が抱える最も深刻な問題の一つなのです。

多様性という名の単一性の罠

「多様性を大切にしよう」という言葉をよく耳にします。しかし、現実はどうでしょうか。実のところ、今の多様性議論は単一の正解を押し付けているだけではないでしょうか。

これは本当の多様性ではありません。むしろ「これが正しい答えです。他は間違いです」という一元的な価値観の押し付けになってしまっています。違いは「間違い」として処理され、真の多元性は失われているのです。

プルラリティ – 違いを創造のエネルギーに変える新しい発想

台湾のデジタル大臣オードリー・タンさんとグレン・ワイルさんが提唱する「プルラリティ」という概念があります。この言葉には「デジタル」と「複数」という二つの意味が込められています。

プルラリティの考え方は革命的です。違いを対立のエネルギーとして使うのではなく、創造と進化のエネルギーとして積極的に活用していこうという提案なのです。単純に「違いを認め合いましょう」で終わるのではなく、その違いを掛け合わせることで新たな次元へと進化していくのです。

エコーチェンバーという現代の牢獄

現在のSNSには深刻な問題があります。それがエコーチェンバー現象です。自分の意見が反響するかのように増幅され、自分の信念だけが強化されるシステムになっているのです。

本来、インターネットは世界を開く自由な技術のはずでした。ところが現実には、極めて閉鎖的で不自由なエコーチェンバーの檻に私たちを閉じ込めているのです。どんな情報も多面的な世界のほんの一部でしかないことを、私たちは忘れがちです。

民主主義の限界と新しい可能性

現在の民主主義システムにも課題があります。一人一票という原子的な形式は、実は中央集権的なシステムを生み出しているのです。対話がなく、お互いを理解し合うこともなく、一握りのエリートが判断したことがすべてになってしまいます。

新しい投票システムの可能性として、以下のような提案があります:

まず「適応型代表性」です。政策ごとに信頼できる人に委任し、その進捗に応じてリアルタイムで重みを調整できるシステムです。投票して終わりではなく、持続的に繋がり続けることができます。

次に「相関割引と固有値投票」があります。これは一人一票ではなく、より幅広いネットワークで繋がっている人の意見により重みを置くという考え方です。まるでGoogleのページランクのように、多様な人々とコミュニケーションしてきた人の一票が、より高く評価されるのです。

さらに「未来市場型提案」という興味深いアイデアもあります。投票を賭け事のように捉え、望む結果への予測と投資として行うのです。結果に対して責任を持ち、成功すればインセンティブが得られるシステムです。

シンクロナイザーの時代がやってくる

現在のインフルエンサーの多くは、残念ながら可能性を閉じる人たちです。しかし、これからの時代に求められるのは「シンクロナイザー」です。

シンクロナイザーとは、異なる意見の橋渡しをし、調和を生み出す人のことです。一方的な意見を発信して分断を作るのではなく、対話を促進し、協力体制を作っていく人たちです。台湾で使われている「Polis」というツールでは、意見の橋渡しをした人が優遇される仕組みになっているそうです。

違いは間違いではない – 新しい未来への第一歩

プルラリティの核心は、違いを間違いとして処理しないことです。違いは違いであり、それぞれが価値ある多様性の一部なのです。

これからの社会では、全く別次元の分野やパラレルワールドから異なる意見を多元的に繋げて、新しいアイデアを創造できる人が求められていくでしょう。そのためには、違いを見つけた時にそれを「間違い」にしてしまわない感性が大切です。

私たちは分断の時代から創造の時代へとパラレルシフトする可能性を秘めています。あなたも、違いを活かして新たな価値を生み出すシンクロナイザーになってみませんか。きっと、想像もしなかった豊かな世界が待っているはずです。

ABOUT ME
マッキー
牧野内大史(まきのうち ひろし)作家、コンサルタント。著書に『人生のシフト』(徳間書店から)スピリチュアル翻訳者として著名な山川紘矢さん 亜希子さんご夫妻 あさりみちこさんとのセッション本(ヒカルランドから)や、監修翻訳を担当した『ソウル・オブ・マネー』(リン・ツイスト著)等がある。2014年にIFEC(国際フラワーエッセンス会議)に日本人ゲストとして登壇した。長野市在住。