とある有名なエピソード。
ヴァージニアは52年の29歳のとき退行催眠(前世療法)によって
「アイルランドにいた頃の記憶」
を思い出すことができた。
彼女はアメリカのコロラド州に住んでいて、もちろんアイルランドに行ったことも、住んだこともない。
それは前世の記憶だという。
彼女は自分をブライディ・マーフィー(Bridey Murphy)だと名乗った。
それから、自分の生涯について詳細に話しはじめ、アイルランドの歌をうたい、アイルランドに伝わる古い物語をかたった。その内容が調査されると、現在は使われていないスラングや実在の教会の存在など、次々と事実と符合する点が明らかになっていったのだった。
ブライディ・マーフィーの語る思い出は、多くの批判を受けつつも、アメリカ国内で
「生まれ変わり」
についての大ブームを巻き起こした。
催眠中の録音テープや関連書籍などはベストセラーになり、映画化もされた。
それから、ここから先はあまり語られないことではあるが、
(だいたいのスピ系の本などでは、ここまでのエピソード引用にて話が終わる)
この話、実は意外な顛末で終わっている。
ブームの影響から様々な調査が行われ、ある事実が出てきたのだ。
ヴァージニアは幼少の頃はイリノイ州に住んでいた。そのころの家のすぐ近くに「ブライディ・マーフィー」というアイルランド系の女性が住んでいたことがわかった(当時は結婚して名前が変わっていた)。一方で、前世が語られた年代におけるブライディ・マーフィーに関しての情報は名前がわかっているにも関わらず皆無。
以上のことから……
きっと、近所のやさしいお姉さん、ブライディ・マーフィーが語った様々な彼女自身の思い出話を、幼少のヴァージニアは意味もわからず聞いていて。その情報を脳内のどこかに記憶していたにちがいない。
つまり、導かれる結論は「思い出のマーニー」ならぬ、
「思い出のブライディ・マーフィー」だったというわけだ。
(この例えがわからない方はぜひ下記ジブリ作品を観るように!)
ちゃんちゃん。
このエピソードは終わった。
……。
しかし、このエピソード自体からは、前世があるとも、無いとも明らかにはされていない。その時代の調査で証明され得る事実がどうあれ、話の大切なポイントは別のところにある。そう僕は考えている。
それが伝聞にしろ、幼少の記憶にしろ、前世の記憶にしろ、彼女はすっかり忘れていた記憶を思い出しことができ、自分のことをブライディ・マーフィーと名乗り、ブライディ・マーフィーとしての自分の人生を思い出しながら語り、魂として自身の葬儀を見ていたという経験までを語った。
今の自分ではない、他生の自分。
これを引き出す、特殊な意識状態があるということ。
彼女はヴァージニアという自我と同一化することを一旦、保留にし、ブライディ・マーフィーというまったく新しい自我と同一化しながら、それが事実か創作か定かでないとしても、様々な記憶情報を大量に引き出したのだ。
この意識は、どういう仕組みなのだろう?
なぜ、このようなことが起きるのだろう?
これから僕が話すことは、そんな、お話。
自分を変える旅から、自分に還る旅へ。