朝食の最中に、頭のはるか上空をミサイルが飛んでいった世界。
これを量子論のひとつ多世界解釈的に考えるなら、それが僕の頭の上に落ちていた世界もあるということです。それは想像とか妄想ではなく、物理的にあった、ということです。たとえ確率が低かったとしても、それが可能であれば、ね。
「確かに、そのようなバリエーションもあった」
これを言い切ると、僕たちのリアリティからはかけはなれた世界の話になります。
理由はとってもカンタンで…
「そうはなっていないじゃないか」
物理的にそれが存在しようが、存在しなかろうが
僕の頭の上に落ちてこない以上は僕の世界にその宇宙は存在していないも同じです。
では、「なぜ、この宇宙 <わたし> にはこの宇宙 <わたし> が選ばれたのか?」の疑問が、前回までのお話。
確率と期待値の心理学においては
「2つの封筒問題」というものがあります。
これはひとつのゲームであり、AさんBさん、2人のプレイヤーには、ディーラーからそれぞれ封筒が配られます。その封筒の中にはお金(お札)が入っていて、ひとつは片方の2倍の金額が入っていることが説明されます。
これからAさん、Bさんにはひとつずつ封筒をお渡ししましょう。
「Aさん、どちらがお得の可能性が高いのか、わかりますか?」
うーん。2倍の額の封筒 ◯ と少ない方の封筒 ✕ 2つがあって、どちらかは僕にはわからない。どう考えたって、確率は1/2なのだから、50%と50%。結論は
「どちらでも同じ、でしょうか……」
「その通りです。それでは、Aさんにはこちらの封筒を。Bさんにはこちらの封筒を」
ディーラーから配られた封筒をAさんが開けてみると、そこには1万円札が入っています。
その瞬間に、Aさんのリアリティはどうしようもなく分岐してしまいました。
Bさんをチラっと見ながら、Aさんは考えます。
「あ、1万円だ。
こちらが多い額の方 ◯ なら、Bさんの封筒には5千円札が……
こちらが少ない額の方 ✕ なら、Bさんの封筒には2万円か……」
モヤモヤしていると、ディーラーが次の指示を出します。
「Aさん、あなたは
一度だけ、封筒をチェンジするチャンスが与えられます。
今から別の封筒に変えることもできるんですよ……」
うーん。Aさんは頭の中でソロバンをパチパチ。
「確率は50%50%だ。
交換しなかった場合の期待値は当然、そのままの1万円」
だけど、交換して◯ 2万円だった場合と✕ 5千円だった場合を考えよう。
すると、期待値は合計 2万5千円 ÷ 2 封筒になるから……
12,500円だ!
つまり、交換したほうが25%もお得!!
「もちろん交換します!!! チェンジ!!!!」
ディーラーはBさんにも同じことを尋ねます。
「Bさん、あなたはどうしたいですか?」
Bさんが封筒を開けると、そこには2万円が入っていました。
「あ、2万円だ。
こちらが多い額の方 ◯ なら、Aさんの封筒には1万円札が……
こちらが少ない額の方 ✕ なら、Aさんの封筒には4万円か……」
「確率は50%50%だ。
交換しなかった場合の期待値は当然、そのままの2万円」
だけど、交換して◯ 4万円だった場合と✕ 1万円だった場合を考えよう。
すると、期待値は合計 5万円 ÷ 2 封筒になるから……
25,000円だ!
つまり、交換したほうが25%もお得!!
「もちろん交換します!!! チェンジ!!!!」
このチェンジは本当にお得なのでしょうか? という問題です。
封筒を開ける前はお得感は同じだったのに、なぜか開けるとチェンジがお得に見える。
実は、これは様々な議論があり、ゲーム理論や行動経済学のプロスペクト理論にまでからめて話題となったりする二つの封筒問題。ここでもともとあったお金は1万円+2万円=3万円なのですから、AさんBさんの正確な期待値はどちらを選んでも1万5千円のはずです。
ですが、実際には、双方とも封筒を見た瞬間に錯覚におちいります。そこから想定される勝手な計算がはじまり、誤った期待値をはじき出してしまうという結果となりました。自分の封筒の中身のX円を基準として、もう一方が(2X or X/2)である設定で計算をはじめてしまうのです。
同じように僕たちには様々な、
目の前に配られた封筒があります。
男性で生まれた、女性で生まれた、なんてのもそう。
客観的にたくさんのバリエーションがあるはずの封筒も開けて見てみれば、それは主観的にはひとつの結果となります。封筒の中身は客観的には「ああだったかもしれない」「こうだったかもしれない」はずです。一方で主観的には、あらゆる可能性を排除したたった「ひとつ」になります。
なんとなく他方は25%増しに見えてしまう、この世界。
それが重なり合っている間は同じに見えても、一度、重なり合いから離れて見れば。
25%増しで別のバリエーションの方がお得に思えてしまうものなのかもしれません。
自分を変える旅から、自分に還る旅へ。