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第2章 フラットランドの風土と住居

第1章のつづき

これを読んでいるあなたの世界と同じように、私たちの世界にも東西南北という4つの方位がある。

太陽などは存在しないからスペースランドのように天体から方角は判断できないけれど、私たちなりの方法がある。

ここでは自然法則によって、常に南方引力が働いている。暖かい地域での引力はごくわずかだから、健康なご婦人なら北へ何百メートルくらい楽に移動できるくらいだ。それでもこの引力は、方位磁石のような役目を果たしてくれている。

それに定期的に降る雨はいつも北から降ってくるから、雨の方向からも方角がわかる。さらに、街の中では家も方角を知らせてくれる。当然、屋根は北からの雨を防ぐように建てられているからね。街はずれで家がなくても、今度は木の幹がその役割をしてくれる。要するにだ。方角を知るのは私たちにとって、まったく難しいことではないということさ。

しかし、より穏やかな温暖地域になってくると、この南方引力を感じるのは難しくなってくる。そんなところで家も木も無いさびしい平原を歩くのなら、たまに何時間も立ち止まって雨を待ってから進まなくちゃいけないことだってある。

それと、もし道でご婦人に会ったのなら常に北側を譲るのが礼儀だ。身体が弱い年代や繊細なご婦人などは、この引力を頑強な男性よりも強く感じるからね。こちらの健康状態と地域によっては南北の判断がしづらいから、この礼儀を守るのはけして簡単なことではないのだけれど。

私たちの家には窓が無い。

なぜなら、家の内も外も、昼も夜も、いつも同じ明るさだ。その光がいったいどこからやってくるのかはわからない。昔の学者たちが「光の源は何なのか?」という興味深い謎に取り組んだ。そして、結局はこの謎は解明されず、この謎が解けたと言い張る人たちで精神病院がいっぱいになっただけだった。それで議会はこれらの無益な探求に重い税金をかけ、比較的最近になって探求の一切を禁じた。

悲しいことに、私ただひとりがこの謎の答えを知りすぎるほどに知ってしまった。

しかし、私の知識を誰ひとりとして理解してはくれない。それどころか笑われてしまう。

私は空間の真実を知り、3次元世界からの光の導入を知っている、たったひとりの存在なのに。この世界でもっとも狂った愚か者のような扱いを受けている。まあ、心痛い脱線はこれくらいにしておいて、住居についての話に戻ろうか。

フラットランドの住居

こちらの住居の建設においてもっとも一般的な形は図のように五つの壁から五角形になっている。

北側の2つの壁、ROとOFは屋根だ。東側には女性用の小さな戸があって、西側にはかなり大きな男性用の戸がある。南側の壁というか、床には大抵は戸がついていない。

四角形や三角形の住居を建てることは許されていない。

なぜなら、四角形の角は五角形のそれより尖っている。三角形ならなおさらだ。生物ではない物質の線は、人ほどは明るく光ってはいないんだ。だから、そこへ向かって軽率な旅人がぼんやり走ってきたら、家の尖った角にぶつかって大変なケガをしてしまう。

そんなわけもあって、この世界の11世紀に、法律によって三角形の家は禁止になった。例外的に、要塞や火薬庫、兵舎などには三角形であることが認められている。そもそも一般市民が近づかない方がいい場所だろうしね。
 
この法律が決まった当初は、特に四角形の家は禁止されていたわけではないのだけれど、特別税がかけられていた。それから3世紀ほど経つと、人口1万人を超える町では公共の安全のため、家は五角形以上とすることが決まった。

こうした議会の努力と社会の常識によって、今では町はずれでも家といったら五角形のものが多いのさ。考古学者が人里離れてかなり遅れている農村まで出かけて、やっと四角い家を発見できるくらい少なくなってきているんだ。

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『フラットランド―二次元の世界から多次元の冒険へ』
エドウィン・アボット・アボット(著) 牧野内 大史 (翻訳)

つづく… 第3章 フラットランドの住人

自分を変える旅から、自分に還る旅へ。

ABOUT ME
マッキー
牧野内大史(まきのうち ひろし)作家、コンサルタント。著書に『人生のシフト』(徳間書店から)スピリチュアル翻訳者として著名な山川紘矢さん 亜希子さんご夫妻 あさりみちこさんとのセッション本(ヒカルランドから)や、監修翻訳を担当した『ソウル・オブ・マネー』(リン・ツイスト著)等がある。2014年にIFEC(国際フラワーエッセンス会議)に日本人ゲストとして登壇した。長野市在住。