『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
去年の映画、DVDになっていたのでぱっと借りて観ました。
アメリカ 60年代から70年代に移り変わりで起きた
おとぎ話。
パラレル・ワールドの出来事。
これからネタバレになってしまうのですが、
「シャロン・テート事件」について何も知らない人は、事前にシャロン・テートやチャールズ・マンソンについての知識があった方が、映画を楽しめると思います。
この映画で描かれるのは1969年の出来事。
1960年代の自由と平和を謳うヒッピームーブメントを終了させたシャロン・テート事件につながっていきます。僕は上映期間中に、人からネタバレを聞いてしまっていたものの、ディカプリオとブラッド・ピットの演技や60年代のハリウッド再現で楽しめました。
以降、ネタバレあります。
この映画はパラレル・ワールドになっていて、ある起きたはずの事件が、ディカプリオとブラッド・ピットによって未然に防がれる。そんなお話になっています。
だから、ワンス・アポン・ア・タイム (once upon a time) というおとぎ話になっているんですね。
注意として、最後のその事件のシーンがかなり残酷なので、ほとんど目を閉じながら観ました。暴力シーンが嫌いな方はラストのバイオレンスシーンは目を閉じた方がいい映画です。
シャロン・テート事件とヒッピー・ムーブメント
で、「シャロン・テート事件」というのは、1969年8月9日、マンソン・ファミリー(チャールズ・マンソンのカルト集団)によって女優のシャロン・テートとその友人たちが惨殺された事件のこと。当時シャロン・テートは『ローズマリーの赤ちゃん』などで知られるロマン・ポランスキー監督と夫婦で妊娠中でした。
この凄惨な事件をきっかけに、ヒッピー・ムーブメントが終わっていきます。
1969年というのは、映画からテレビ時代への切り替わりのタイミングでもありました。
あと、この映画にはLSDが出てきて、主人公がいっちゃった状態で犯人たちを鎮圧します。そのとき、家に押し入ってきた犯人がLSDを使用したドラッグ・セッションについて語っており、ある種の犯行自体が天啓だったかのようなセリフがあります。
こういうときの「わかった」という感覚は怖ろしいものがあります。
それまでの常識をぶち壊してしまうインパクトがあるからです。
60年代というのはとても特殊なタイミングです。もともと、LSDというのは人格に良い影響を与えるための研究対象でもありました。
イルカの研究やアイソレーションタンクを開発して有名なジョン・リリー博士も積極的にこの幻覚剤を用いていました。法律で規制される前の時代です。研究室からLSDがばらまかれ、大学ではLSDに関する講演会が開かれ、薬局にはLSDが新薬として並び、当時の若者からは「インスタント禅」なんて呼ばれていました。
研究例としては、1961年からハーバード大学のティモシー・リアリーはシロシビンやLSDなど幻覚剤を使って刑務所の受刑者を更生させる実験を行い、再犯率を大幅に低下させていたりします(70%から10%に変えた)。
リアリーは人間の行動は文化に依存したゲームであり、そのゲームを断ち切るために「悟る」ということが重要なのだと理解しました。この悟りとは、意識を拡大させゲームの操り人形から抜け出すということ。リアリーにとって、犯罪者はけしてダメ人間ではなく、「参加しちゃってるゲーム」がダメなんだよ、ということですね。
ただ、このLSDはCIAのMKウルトラ計画(洗脳の研究)などともからんでいき、オウム真理教もマインドコントロールのためにこの薬物を使用してなどの事例もあります。つまり、良い可能性の反面でアブナイ薬品でもあるので、60年代になると急速に法規制がはじまっていきます。この流れにはヒッピーの暗黒面も強く影響していそうです。
「悟る」ということがどういうことか?
「わかってしまう」とは、どういうことか?
ゲームから解放されるということは、社会的に危険な面もあります。
映画産業が斜陽となり、行き詰まりを感じていた当時のハリウッド。古きに絶望し、新しい可能性を模索していた時代。
この時代には、現在の「自己啓発」の源流となる、人間の可能性の探求が注目されていました。
そのヒューマン・ポテンシャル・ムーブメントの震源地ともいわれるのが、同じカリフォルニア州にある、スピリチュアルと心理学を統合したエサレン研究所です。
この協会の設立が1961年で、翌年に設立者のマイケル・マーフィーとリチャード・プライスは、アブラハム・マズローと偶然の必然で出会っています。それから、60年代の自由と平和を謳うヒッピームーブメントが終了し、ワーナー・エアハードがエサレンで得た知識などをもとにEST(エスト)という自己啓発セミナーを、ドラッグを使わない変容として70年代からスタートさせていきます。
禅の鈴木大拙がノーベル平和賞の候補になったのが1963年、70年に入って移り変わりの時期にヒッピー文化に心酔したのがスティーブ・ジョブズ。などなど、色々な出来事を思い出しても、この時代感覚はアメリカ社会のひとつのターニング・ポイントだったのかもしれません。
そういう時代の流れで起きたこと・起きなかったこと・パラレルワールドとして観ても、とても興味深い映画でした。
自分を変える旅から、自分に還る旅へ。