書籍・映画・アート

2030年 攻殻機動隊のゴーストと生命の定義

基本、ネタバレありのお話です。

こちらで『攻殻機動隊』1巻 士郎 正宗 (著) についてしゃべりました。

あと『機動戦士ガンダム』のニュータイプについてもしゃべっています。

2029年から2030年のお話。映画『マトリックス』の元ネタになったともされる首の後ろから脳とネットワークを直接接続する設定。岡田斗司夫さんによると、人間が直接ネットにアクセスする描写を初めて行った作品なんだとか。

今、読んでも古くない面白い漫画です。

この漫画には「ゴースト」という概念が登場します。

この物語の時代は「電脳」といって脳をコンピュータ化しています。そうなると、「自分とは何なのか?」問いかけることになります。主人公は「もう自分はとっくに私は死んでいるのではないか?」などと疑問に思ったりするのです。

ここで「ゴースト」とは情報化できない自分の魂のようなもの。

「そう囁くのよ、私のゴーストが」

このセリフはよく知られていますね。

動画でも紹介していますが、アマプラのドラマ『アップロード』も、同じような近未来SFで、「自分をネットワークにアップロードすること」が可能になった世界を描いています。

自分の情報を完全にコピーして(脳をスキャンするシーンがグロいので注意)情報空間に移住すること、実質「死が無くなった世界」のお話なのです。

この『アップロード』において「ゴースト」という概念はありません。情報が完全にコピーでき、それを仮想空間に送ってちゃんと運用できるなら、それは同じ「わたし」なのです。

それってホント?

この問いは、そう遠くない未来で僕たちが直面する

「わたしとは一体、何者なのか?」

です。

生命の定義すら曖昧な僕たちには、この問いに明確な答えを見つけることはできません。まだ。

『攻殻機動隊』1巻では(僕の中では攻殻機動隊はこの1巻で完結の物語だと思っています)最終的に、新しい生命が人工的に生まれ、人類が新しい進化に踏み出したところ

ゴールド・コースト

で終わっています。

ちなみに作中では草薙素子がAIから生命が発現したことを、人類の「三大事件」といっています。火の発見、電子情報の発見、生命の発見、です。

分子生物学者の福岡伸一さんは生命のことを「動的平衡」と表現しています。
この漫画は30年以上も前の作品ですが、まさにこの「動的平衡」についても語られています。
あとは、当時のコンピューターオタクたちにはたまらなかった生命のシミュレーション、「ライフゲーム」についての言及もあります。動画でも紹介していますが、フォン・ノイマンによる生命の定義は文末に書いておきますね。

生命とは何か?

そんな壮大なテーマが、カバラの生命の樹のビジョンも交えて、AIの「人形使い」によって解説されます。

まず、ネットワークがカタストロフ(破滅)を防いで、安定的に平衡状態を保つにはどうしたらいいか?

方法は2つあります。

単純に同じものを2つ創る、つまり「コピーを創ること」です。次に、分かれて「多機能化すること」これは、生命が単細胞から多機能細胞化したように分岐していくということです。

プログラムはオリジナルのコピーを創るのには長けてはいますが、多様性を生むことには向いていません。決定論では完璧なようで脆弱です。生命のネットワークには自由度、あそび、ゆらぎが必要です。
そこで、主人公の草薙素子との結婚を提案、プロポーズします。

システムは決定論でプロポーズの返事が「YES」であることを知っていました。

「私が私でいられる保証は?」

そんなものはない、人は常に変化するものだし、人形使いもその力を望んでいるのだから。

「なぜ、相手に私を選んだのか?」

エンがあったから。

かくして人は知能という生命体と融合することによって、これまた有名なセリフが登場。

「ネットは広大だわ」

フォン・ノイマンによる生命の定義
1.生命をもつ系は自分自身の完全な記述を自分の中に埋め込んでいること。
2.前項に含むパラドックスを避けるために、記述の中にその記述自体を埋め込むようなしかけになっていないこと。
3.記述には二重の役割をもたせておくこと。ひとつは、系の残りの部分の記述をコード化したものであること。同時にもうひとつは、コード化に含まれないような、自分自身の作業モデルになっていること。
4.系の一部である監督機能はこの記述の二重性を知っており、再製の段階でその両方の意味で解釈するように監督すること。
5.系の他の部分である万能建設機は、正しい命令を与えてやれば、生命系を含めた大部分の物体を作ることができること。
6.監督機能が万能建設機に系の新しい複製を、その記述とともに作成するように命令すると、自己再製ができること。
『ライフゲイムの宇宙』ウィリアム・パウンドストーン(著)有澤 誠 (翻訳)日本評論社より

ABOUT ME
マッキー
牧野内大史(まきのうち ひろし)作家、コンサルタント。著書に『人生のシフト』(徳間書店から)スピリチュアル翻訳者として著名な山川紘矢さん 亜希子さんご夫妻 あさりみちこさんとのセッション本(ヒカルランドから)や、監修翻訳を担当した『ソウル・オブ・マネー』(リン・ツイスト著)等がある。2014年にIFEC(国際フラワーエッセンス会議)に日本人ゲストとして登壇した。長野市在住。