
旅人は目をさますと
資料の散乱したベッドから
はい出てバスルームへと向かう。
顔を洗うと急いで着替えて、
リュックサックをつかみ部屋を出る。
階段をリズミカルに降りて、
レイラにおはよう、と声をかけると
足早に宿を出て、旅人は高台を目指した。
白壁のひしめき合うような坂道を登る。
石畳の細い道をひたすら歩いて
息があがってきた頃、小さなスペースに出た。
息は白く、誰もいない静かなスペース。
そこは開けていて、
振り返ると街全体を見下ろすことができた。
朝霧の向こうには遠くの古城がうっすらと見える。
きっと500年前にも同じ光景を見た人がいるのだろう。
旅人はそんな神秘的な想いを抱いた。
そして、4つ置いてあったベンチのひとつに座り、
リュックサックからノートとペンを取り出す。
スケッチをするためだ。
ふと擦れるような足音が聞こえて
そちらを向くとジプシーらしき老婆が近づいてきた。
じっと見ていると、その老婆はゆっくりと歩きながら
わざわざ、旅人の座っているベンチに座った。
旅人は少し驚きながら、
何か売りつけられるのでは、と身構えた。
しかし、いかぶる旅人をよそに、
ただ老婆はじっと正面だけを見つめている。
スケッチを再開しようと無地のノートを見つめると
となりで、ぶつぶつと何かを口ずさむ音が聞こえてきた。
その音に耳をすますと、それはひとつのメロディー。
確かに、それは歌だ。
スケッチをやめて耳をすませながら
そのまま、ノートに書き留める。
芋虫の世界は 小さな木の葉一枚の世界
それが彼の世界のすべて 彼の人生のすべて
やがて 彼は理由もわからず
まゆをつくり さらに小さな世界に閉じこもる
暗闇と絶望の中で 彼は人生の最期をじっと待つ
やがて 光さす外の世界にはい出てみると
背中には まばゆい4枚の羽
きらきらと舞いながら
世界はかくも大きく 人生はかくも美しいことに
はじめて 彼は氣がつく
世界の本当の姿にも 自らの本当の姿にも
どんな生命にも訪れる それが 氣づきの一瞬
ペンを止め、振り向くと
すでに彼女はどこかへ消えてしまっていた。
旅人はノートをリュックサックにしまうと、
さらに高台を目指して、また坂を登り始めた。
11月






About the Author:
本名:牧野内 大史(まきのうち ひろし)友人たちからは「マッキー」と呼ばれている。心理コンサルタントとしてイメージ療法を取り入れた講演、ワークショップなどを全国で展開。現在は自然豊かな長野オフィスにて、多くの人たちが「自分らしく生きること」をサポートしている。著書には、「人生のシナリオを書き換える イメージの法則」などがある。