第20章のつづき

目覚めると、これまで起きた輝かしい経験について思い返した。今すぐに行動を起こしてフラットランドの住人すべてにこの福音を説こう。ご婦人や兵士たちにさえこの3次元の福音は説かれるべきなんだ。まずは、妻だ。

私が計画を実行すると決めたとき、沈黙を命じる、たくさんの声が家の外から聞こえてきた。それよりも大きな声が続いて聞こえた。それは伝令兵が何かを言い渡している声だった。慎重に耳をすませると、それが議会での決定事項を言い渡す言葉だとわかった。他の世界から啓示を受けたとする妄想を公言することで、住民たちの心を傷つけた者は逮捕して投獄する。そのような言葉が続いた。

そして、これはとても危険なことなのかもしれないと、私は考えこんでしまったのさ。

だから私は、自分が受けた啓示は一切他言することなく、ただそれを実演することで道を示していくことにした。その方がシンプルで確実だし、安全でリスクも少ないからね。「上を目指せ、北ではなく」この言葉こそ、すべてを証明してくれる。それは眠る前はかなりはっきりしていたし、起きた直後はその記憶はまだ新しく、数学の計算のようにはっきりしたことだった。

ところが、どういうことだろう。

今はそれほどはっきりはしていない。

ちょうどそのとき妻が部屋に入ってきたが、私はいつも通りにふるまった。このことを彼女には話さないことに決めた。

五角形の息子たちは評判のよい医師だ。しかし、数学には詳しくないから、私の目的にふさわしくない。

そこで、幼い六角形のことが思い浮かんだ。

あの子には数学の才能がある、まさにぴったりの生徒だ。まずは孫を相手に実験してみよう。あの子の3の3乗についての素朴な指摘は、スフィアだって認めたことなんだ。それに、ただの子どもとこの話をしたところでまったく安全だ。あの子が議会の宣言など知るはずもないのだからね。一方で息子たちは完璧な愛国心を持ち、円を盲目的に尊敬している。私がこのような異端の考えを心から支持していると知ったら、総長に引き渡されてしまうだろう。

しかし、まずは妻を納得させなければならなかった。彼女は、どうして円が私に秘密で会いにきたのか、そして円はどうやってこの家に入ってきたのか、知りたがっていたからだ。私は巧妙に妻を説得した。といっても、スペースランドのあなたにとっては、まったくのでたらめに聞こえる話だろう。でも私にとっては3次元の話を一切することなく、妻が納得しさえすればよかった。

妻が家事に戻ると、すぐに孫を呼んだ。というのも、自分の経験したことのすべてが、奇妙にも消えていくのを感じていたこともあってね。面白い夢で見たイメージを半分も思い出すことができない、そのような感覚だった。そして一刻も早く私の最初の弟子に話してみたかったのだ。

孫が部屋に入ってくると、私は慎重にドアを閉めた。そして、彼のとなりに座り、算数版、またはあなたにとっての単なる線を手に取り、昨日の復習をしよう、といった。そして、また点が1次元を動いて線になること。線が2次元を動いて正方形になることを示した。さらに、私は無理やり笑顔をつくりながら、次のように言った。

「そしてだ、かわいいいたずら者め。お前は昨日、正方形を同じように『上へ、北ではなく』動かしたとしたら、どうだろう。そこには別の図形、3次元の超正方形のような形ができるはずだと、言っていたよね。もう一度、おじいちゃんに教えてくれないかな?」

この瞬間にも外では伝令兵たちの、そうだ、その通りだ、という声が聞こえてきた。議会の決定事項を宣言でもしているのだろう。そして、この孫は幼くあっても歳のわりには聡明で、円の権威をひたすら敬うように育てられていた。彼は私の予想以上の正確さで状況を理解したのだ。伝令兵の言葉が聞こえなくなるまで黙っていた彼は目にいっぱいの涙を浮かべていた。そして、こう言った。

「おじいちゃん、あれはただふざけていただけなの。何の意味もないの。ぼくは新しい法律について何も知らなかったし、3次元についてなんて話してないし、北ではなく上へ、なんて言った憶えはないよ。僕は子どもだけどそんなばかじゃないよ。そんなの、おかしいよ、あははは」

「おかしくなどあるものか!」

思わず、怒鳴ってしまった私は、動かすことのできる正方形カードをつかんで見せた。

「例えば、この正方形を手に取ってだな。いいか、こうやって動かすのさ。北ではなく、そうだ、上へと動かす。つまり北ではない別の方向へ。あれ、本当はこんなふうではないんだが、ほら、こうやって……」

意味の通じる言葉を、私はこれ以上は言うことができなかった。

その後は正方形カードを持って、あちらこちらに振り回しているだけだった。そんな私の姿を見て、孫は面白がった。大声でげらげらと笑い出すと、勉強を教えてくれるなんていってふざけてるだけじゃないか、と部屋から走り出していってしまった。

以上のように、3次元の福音を弟子に伝えるという私の試みはまったくの失敗に終わった。

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『フラットランド―二次元の世界から多次元の冒険へ』
エドウィン・アボット・アボット(著) 牧野内 大史 (翻訳)

つづく…… 第22章 多次元の冒険 次元上昇理論を拡散しようとした結果

自分を変える旅から、自分に還る旅へ。

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第21章 多次元の冒険 3次元の講義2017年6月8日
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